その硯、ただの文房具ではないかもしれません

使わなくなった書道の道具。硯だけは、捨てる前に一度ご確認ください。

お子さまが習字で使った硯、亡くなられたお父様の書斎に残る硯。「もう使わないし」と処分されそうになりますが、硯の世界には、一つで数万円、銘品ともなればそれ以上の評価がつくものがあります。今日は、良い硯を見分けるいくつかのポイントをご紹介します。

石でできているか(プラスチック・練り物ではないか)

まず持ち上げてみてください。ひんやりと重く、硬い「石」の感触があれば期待できます。軽くて温かみのある樹脂製(練り硯)は残念ながら対象外ですが、天然石の硯であれば、産地や作りによって価値が変わってきます。

裏や側面に「銘(めい)」が彫られていないか

硯の裏側や側面に、漢字の文字や落款(らっかん)が彫り込まれていることがあります。これは作者や産地、由来を示すもので、価値を大きく左右します。特に中国の名硯「端渓(たんけい)」や「歙州(きゅうじゅう)」の銘があれば、高額査定の可能性が高まります。

あわせて、蓋の素材もご確認ください。銘だけでなく蓋そのものが評価対象になります。紫檀(したん)や黒檀(こくたん)といった唐木(からき)が使われている場合、査定額がアップする可能性があります。黒っぽく重量感があり、木目が緻密で艶のある蓋は唐木の可能性が高いです。

「陸」と「海」を見てください

硯の窪みには名前がついています。墨をする平らな面を陸(りく)、磨った墨が溜まる深い窪みを海(うみ)と呼びます。ここが硯の性能そのものを表す部分で、査定でも必ず確認します。

  • 陸のきめ 陸を指でそっとなでてみてください。ざらつかず、きめが細かく滑らかなものは石質が良く、墨が早くおりる良硯です。
  • 彫りの丁寧さ 陸から海へ向かう傾斜や境目が、なめらかに彫られているもの。手作業の丁寧な仕事は評価が上がります。
  • 石紋・装飾 石の表面に、雲や水の流れのような自然の模様(石紋)が見えるもの。縁に龍や松の彫刻があれば工芸品として評価されます。

なお、長く使われて陸が凹んでいても減点にはなりません。使い込まれた硯は、それだけ良い石だった証でもあります。洗ったり削ったりせず、そのままの状態でお持ちください。

共箱(ともばこ)は必ず一緒にお持ちください

硯が収まっていた木箱があれば、必ず一緒にお持ちください。箱が付いているというだけで、それだけで買取価格が上がります

理由は2つあります。ひとつは、木箱そのものが硯とセットで作られた付属品として評価されること。もうひとつは、箱に書かれた文字(箱書き)が産地の証明になることです。どこで作られた硯かが分かるだけで、査定額は大きく変わります。

「箱は古くて汚れているから」と処分されてしまうケースが本当に多いのですが、それは価格を下げてしまう行為です。傷んでいても構いませんので、そのままお持ちください。これは掛軸やお茶道具にも共通する、骨董の大切な考え方です。