今回ご紹介するのは、『独楽釜 出雲たたら和銑』でございます。
茶の湯の世界において釜は「主客をもてなす中心」であり、茶席の空間そのものを形作ると言っても過言ではない特別な道具です。沸き立つ湯の音や姿は、茶道の風情を深く際立たせます。
作者の角谷一圭は、昭和53年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された釜師の名工です。伝統的な造形美の追求にとどまらず、希少な出雲の「たたら和銑」を用いるなど、素材や技法への飽くなき探求心で数々の名作を残しました。本作『独楽釜』も、和鉄特有の味わい深い肌合いと独楽型の端正なフォルムが見事に調和した逸品です。
本作の素材である「出雲たたら」とは、古来より島根県(出雲地方)に伝わる伝統の「たたら製銑」によって生み出された希少な和銑のことです。独特の深い風合いとやわらかな鉄肌が特徴で、古釜のような気品を感じさせます。題材となった「独楽(こま)」は、その旋回するフォルムを釜の造形に落とし込んだもので、「物事が円滑に回る」「首尾よく運ぶ」という吉祥の意味が込められています。
家元などの書付は伴わないお品物ですが、角谷一圭の卓越した造形美と「出雲たたら和銑」が誇る豊かな素材感が際立つ作品です。本作は、共箱が付属しており、作品の保存状態も極めて良好だったため、こちらの評価とさせていただきました。