
茶道は古くから日本の伝統文化の一つとして発展を遂げてきました。
その茶道には、表千家や裏千家などの有名な流派以外にも、さまざまな流派が存在し、それぞれに独自の作法や理念を代々受け継いでいます。
この記事では、茶道における流派について、その種類や特徴などをご紹介いたします。
茶道の流派とは
茶道における流派とは、お茶の点て方や茶室での作法、茶道に関する文化を継承する集団のことです。元々、千利休によって確立された茶道は、長い歴史の中で分派していき、現在では500種類以上の流派が存在すると言われています。
茶道の流派は、それぞれの家元によって継承されていくものであるため、流派ごとで点前作法、茶室のしつらえ、茶道具の選び方や扱い方、茶の湯に対する精神性などが異なります。
もしこれから茶道を始めたいと思っている方は、これらの流派の違いを理解し、自分が習いたい流派を選ぶことが大切です。
代表的な三千家の流派とその特徴
茶道の流派の中でも特に有名なのは、裏千家、表千家、武者小路千家を含めた「三千家」でしょう。三千家は、千利休の末裔によって創設された流派で、千利休の思想を受け継ぎながらも、各流派で独自の特徴があります。
以下で三千家について、詳しくご紹介いたします。
表千家
表千家は、千利休の孫である千宗旦(せんのそうたん)の三男、江岑宗左(こうしんそうさ)から生まれた流派です。
表千家は千利休の精神を受け継ぎ、古くからの作法に厳格な流派です。茶道を極めることを常に目標としており、所作や作法の一つ一つについて「水が流れるように」を理想としています。
【茶の点て方】
表千家のお茶は、茶筅を優しく動かすことであまり泡を立てずに点て、まろやかな味わいなのが特徴です。
【作法】
「茶室に入るときは左足から入る」、「正座する際には男女ともに膝を開きすぎない」、「服装は地味だが品のあるものを着る」などの細かな特徴があります。
【茶道具について】
表千家では、上品で落ち着いた雰囲気の茶道具が好まれます。唐津焼や井戸茶碗など、自然の景色を写したような意匠の茶碗が多く、木地の風合いを生かした茶器も好まれます。
また、茶釜は比較的薄作りで、侘びた風情を持つものが特徴です。茶筅には煤竹を使用し、袱紗は男性が紫、女性が朱色を用いるのが基本です。
裏千家
裏千家は、千利休の孫である千宗旦(せんのそうたん)が自らの母屋を三男の江岑宗左(こうしんそうさ)に譲り、その北側(裏側)に隠居するための屋敷を建てたことに始まります。その屋敷には、今日庵(こんにちあん)という茶室も設けられていたため、母屋から見て裏側にある茶室であることから、裏千家の名前の由来になったといわれています。
古くからの作法や所作を厳格に重んじる表千家に対して、裏千家は、伝統を守りつつも新しい茶道の在り方を模索してきた流派で、「開かれた流派」ともいわれています。そのため、日本の茶道人口の約半数を占め、最も人口が多い流派になります。
裏千家は、初心者でも始めやすいように各所で工夫がされているのが特徴です。
【お茶の点て方】
裏千家のお茶は、茶筅を細かく動かすことでよく泡立てられているのが特徴です。
【作法】
表千家とは反対に、「正座する際は男女ともに膝を開けて座る」という違いがあります。また、「盆略点前(ぼんりゃくてまえ)」といい、お盆の上で行う簡略化された手前の作法などがあります。
【茶道具について】
茶筅は白竹で作られたものが使用されます。また、袱紗については、男性は表千家と同じく紫色ですが、女性は主に赤色を使用します。しかし、女性は他の色を使用してもよいとされています。
武者小路千家
武者小路千家(むしゃのこうじせんけ)は、千利休の孫である千宗旦(せんのそうたん)の次男の千宗守(せんのそうしゅ)が始めた流派です。
武者小路千家は表千家と裏千家に比べると小規模な流派ですが、千利休が大成させた茶道の「わびさび」を重要視しており、厳格で保守的だとして知られています。
【お茶の点て方】
表千家と同様に、あまり泡を立てないのが特徴です。また、手前においては、侘びの精神を基調にした簡素で静謐な雰囲気が大切にされています。特に、「草(そう)」という手前には、武者小路千家らしさが表れています。
【作法】
正座をする際は、男性は膝を拳一つ分開けて座り、女性は足を閉じて座るのが特徴です。着物は表千家同様に、地味ながら上品であるものが良いとされています。
【茶道具について】
武者小路千家の茶道具は、表千家や裏千家と異なり、落ち着いた雰囲気のものから、意匠を凝らしたものまで、さまざまな種類があります。
茶碗は、高台(こうだい)と呼ばれる茶碗の底の部分に特徴があり、低く内側に傾斜しているものや、「猫足高台」と呼ばれる、高台の形が猫の足に似たものが多く見られます。茶釜は、比較的小ぶりで、肩の張ったものが多く、唐銅(からかね)と呼ばれる銅と錫の合金で作られたものが好まれます。茶筅は、紫竹のものが使用されます。ふくさは、男性は紫、女性は赤色を用いるのが基本です。
その他の流派について
茶道の流派は三千家だけではありません。ここでは三千家以外の流派とその特徴をご紹介します。
藪内流
藪内流(やぶのうちりゅう)は、17世紀の始めに藪中斎剣仲紹智から始まった流派です。
藪中斎剣仲紹智は千利休と同門の出身で、相弟子の関係になります。二人は非常に仲が良かったため、藪内流は利休の茶の影響も強く受けています。そこに武家茶道の文化を取り入れ、独自の茶風を確立しました。
【茶道具について】
藪内流で使われる茶道具は、実用性を重視し、手に馴染みやすいデザインが特徴です。
茶碗は、高台が低く、口縁(こうえん)が広いものが多いです。特に、「沓形(くつがた)」と呼ばれる、履物の形に似た茶碗が有名で、これは、茶碗を持つ際に手にフィットしやすく、実用性を考慮したデザインと言われています。
藪内流の茶道具は、日常生活に茶の湯を取り入れやすいよう、実用的でありながら質素で洗練されたものが多いのが特徴です。
遠州流
遠州流は、武家茶道の一つとして、江戸時代初期の大名である小堀遠州(こぼり えんしゅう)によって確立された流派です。
遠州流最大の特徴は、「綺麗さび(きれいさび)」と呼ばれる、洗練された茶の湯の美意識です。これは、「わびさび」の要素に加えて、明るさや華やかさ、豊かさを取り入れたもので、茶道具や点前にその特徴が表れています。
また、遠州流では茶室、庭、茶道具、点前などが一体となった、空間全体に対して重きを置いています。
【手前について】
武家茶道らしい格式を重んじ、所作は直線的で力強く、無駄のない動きを特徴としています。
【茶道具について】
遠州流では、瀬戸焼や織部焼の茶道具が好まれています。また、茶碗には左右非対称の形や轆轤目を意図的に残したものがあり、遠州流の独特の美意識が感じられます。また、日本の茶道具以外にも、唐物(中国製)の茶入なども使用されています。
江戸千家流
江戸千家流は、表千家七代家元である千宗左(せんそうさ)の内弟子、川上不白(かわかみふはく)によって開かれた流派です。
江戸文化の影響を受けながらも、千利休の侘び茶の精神を尊重し、「平常心是茶(びょうじょうしんこれちゃ)」という教えを大切にしています。「平常心是茶」とは、日常生活の中でこそ茶の精神を見出し、平常心を保ちながら茶の湯を楽しむことを意味します。この教えは、当時の江戸の町人文化にも重なる部分が多かったため、多くの人々から評価されました。
【手前について】
江戸千家流では、格式ばらず、ゆったりと茶を楽しむことを重視しています。自然でさらりとした所作を特徴としており、茶室全体を美術的な空間として作り上げるというよりも、茶人と客が心を通わせ、和やかな時間を共有することを大切にしています。
松尾流
松尾流は、江戸時代の始めに松尾宗二(まつおそうじ)によって開かれた流派です。
祖である松尾宗二は、千利休の孫である千宗旦(せんのそうたん)から茶道を学んでいました。また、松尾流は、尾張徳川家と関係が深かったことから、尾張藩の茶道として発展していきます。
【茶風について】
松尾流は、武家茶道の影響を受け、格式を重んじる傾向があります。静かで落ち着いた茶風を特徴とし、華美な装飾や奇抜な演出はほとんどありません。
【手前について】
松尾流の点前は、格式を重んじ、細部にわたる丁寧な所作を特徴とします。特に、客をもてなす際の一連の動作には、茶人の心配りと品位が表現されています。
【茶道具について】
伝統的な形式を踏襲したものが多く、特に目立った特徴はありません。
石州流
石州流(せきしゅうりゅう)は、片桐石州(かたぎりせきしゅう)によって開かれた、武家茶道の代表的な流派の一つです。
片桐石州は、徳川家綱に茶道を指南し、幕府の茶道に大きな影響を与えました。そのため多くの大名や武士が石州流を学び、全国的に広まりました。
【茶風について】
石州流は、「不昧(ふまい)」と呼ばれる茶風を特徴とします。「不昧」とは、「飾らない、自然な」という意味で、簡素で静謐な茶の湯を追求します。「茶の湯の根本は一に清浄、二に慎み、三に敬い也」という石州の言葉は、石州流の精神をよく表しています。
【手前について】
石州流の点前は、簡素で無駄のない所作が特徴です。動作一つひとつが無駄を省き、全体の流れに調和をもたらしながらも、格式を重んじつつ自然な所作となっています。
【茶道具について】
石州流の茶道具は、簡素で実用的なものが多く、華美な装飾などはほとんどありません。茶碗は、高台が高く、口縁が直線的なものが多いのが特徴です。茶杓は、竹の自然な形を生かした、節のある茶杓がよく使用されており、水指には、唐物(中国製)の水指を良く使用しています。
宗徧流
宗徧流(そうへんりゅう)は、山田宗徧(やまだそうへん)によって開かれた流派です。山田宗徧は、三河吉田藩の小笠原家に仕え、茶頭(さどう)を務めました。
また、茶書「茶道便蒙抄(ちゃどうべんもうしょう)」や「茶道要録(ちゃどうようろく)」などを著し、茶道の普及にも貢献しました。特に茶道便蒙抄は、当時の茶の湯を知る上で貴重な資料となっています。
【茶風について】
利休の侘び茶を基本とし、簡素で静謐な茶風を特徴とします。特に、点前の稽古を通して、身体の使い方や茶道具の扱い方を丁寧に指導することを重視します。「師匠、空間、茶道具、点前、許状」を重視し、師弟関係を重んじることも宗徧流の大きな特徴です。
【手前について】
無駄のない所作で、静粛な雰囲気の中で茶を点てることを大切にしています。
【茶道具について】
宗徧流の茶道具は、簡素なものを好む傾向がありますが、中には利休時代の黒楽茶碗や、織部焼の水指など、意匠を凝らした茶器も見られます。これらは古格を重んじながらも、茶の湯の美意識を反映したもので、宗徧流の特徴をよく表しています。
まとめ
茶道は古くから日本の伝統文化として発展し、その流派は500以上あるといわれています。
流派の中で特に有名なのが表千家、裏千家、武者小路千家の「三千家」ですが、その他にもさまざまな流派があり、それぞれに特徴があります。