
「実家の整理をしていたら、以前家族が購入した象牙製品が出てきた」 「譲り受けた象牙の置物や印材、手放すにはどうすればよいのだろうか」
骨董品や美術品の中でも、象牙は古くからその美しさと希少性で多くの人々を魅了してきました。しかし、近年では環境保護の観点から国際的な管理体制が強化されており、その取り扱いには他の美術品とは異なる特別な配慮が求められます。
かつてはインターネット上のオークションやフリマアプリなどを通じて、個人間で活発に取引されていた時期もありました。そのため、「ネットを使えば自分で売ることができるのではないか」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、現在では主要なプラットフォームの規約改定や法整備が進み、個人による象牙のネット出品は非常に困難、あるいは多くのサービスで「禁止」となっているのが実情です。
この記事では、2024年〜2025年時点における象牙取引の現状と、個人が安全に手放すために知っておくべきルールについて解説します。誤った判断でトラブルを招かないための参考情報としてお役立てください。
インターネットでの「個人出品」に関する現在の状況
まず、インターネットを利用した個人売買(オークションサイトやフリマアプリ)における、現在の象牙の取り扱い状況について整理します。
結論から申し上げますと、現在、国内の主要なWEBプラットフォームの多くが、象牙製品の出品を全面的に禁止、あるいは厳しく制限しています。
主要サービスの対応状況
かつては一定の条件下で出品が可能だったサービスもありましたが、現在は状況が大きく変化しています。
- フリマアプリ全般 メルカリ、ラクマなど、多くのフリマアプリでは、以前より象牙製品の出品が禁止品目として指定されています。これは全形牙(元の形のままの象牙)に限らず、加工品(印鑑、アクセサリー、パーツなど)であっても、象牙素材が含まれる製品は一律で取り扱い不可となっているケースが一般的です。
- インターネットオークション ヤフオク!など、国内最大手のオークションサイトにおいても、2019年11月よりガイドラインが改定され、象牙および象牙製品の全取引が禁止となりました。
このように、現在では「個人がスマートフォンやPCを使って、手軽に象牙を売却する」という手段は、主要なサービスにおいては選択できなくなっています。
主要プラットフォームの象牙対応状況一覧
多くの個人が利用する主要なサービスでは、以下の通り取り扱いを停止しています。
| プラットフォーム | 出品可否 | 詳細・主な理由 |
|---|---|---|
| 大手フリマアプリ | × 禁止 | 以前より全面禁止。象牙製品および象牙を含む可能性のある加工品も規約違反として削除対象。 |
| 大手オークションサイト | × 禁止 | 2019年11月1日より全面禁止。全形牙、カットピース、装飾品など、象牙素材を含む全ての出品が対象外となった。 |
| 地域情報掲示板/SNS | △ 非常にリスキー | 規約で禁止されているケースが多く、仮に取引が成立しても法的な証明が難しくトラブルの原因となる。 |
※詳細な取り扱い状況については各サービスの公式情報をご確認ください。
なぜ規制が強化されたのか
これほどまでに規制が厳格化された背景には、野生動植物の保護に関する国際的な潮流があります。
象牙取引に関しては、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」に基づき、国際取引が原則禁止されています。
日本国内の取引については、過去に合法的に輸入された在庫に限って認められていますが、国際社会からは「国内市場が違法取引の隠れ蓑にならないよう、厳格な管理を行うべきである」という要請が強くありました。
こうした状況を受け、各プラットフォーム運営会社は、コンプライアンス(法令順守)やCSR(企業の社会的責任)の観点から、象牙製品の取り扱い自体を取りやめるという判断に至ったのです。
個人取引を行おうとした場合に想定されるリスク
仮に、まだ規約で禁止されていない小規模なサイトや、個人のSNSなどを通じて取引を行おうとした場合、どのような懸念があるのでしょうか。ここでは、法律面と取引面の両方から、個人取引におけるリスクについて解説します。
「種の保存法」との関係
日本国内における象牙取引は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」によって厳しく管理されています。
この法律では、象牙(特に全形牙)を売買・譲渡する際には、必ず国(登録機関)が発行した「登録票」が必要であると定めています。もし、登録票のない象牙を売買したり、登録票が付いていても所定の手続きを経ずに譲渡したりした場合、罰金の対象となる可能性があります。
「知らなかった」という理由であっても、法律上の責任を問われるケースがあるため、個人間取引は非常にリスクが高く、自己判断で行うべきではありません。
真贋や状態説明にまつわるトラブル
象牙は天然素材であるため、保管環境によって状態が変化しやすい性質を持っています。
- 乾燥によるヒビ割れや変色
- 重量の変動(乾燥により軽くなることがあります)
例えば、所有している登録票には「重量3.5kg」と記載されていても、経年変化で実測値が数グラム減少していることがあります。個人間取引の場合、こうしたわずかな差異が「登録票と現物が一致しない」「別物ではないか」といった疑いにつながり、取引後のクレームや返品トラブルに発展する懸念があります。
また、象牙に似せた「練り物」や「骨製品」との見極めも専門知識が必要であり、善意で出品したものが結果的に誤った情報を伝えてしまうリスクも否定できません。
安全確実な選択肢としての「専門業者」
インターネットでの個人出品が難しくなった現在、象牙を売却するための適切かつ合法的なルートとして推奨されるのが、専門業者への依頼です。
「特別国際種事業者」とは
象牙製品を事業として取り扱う(売買・交換・陳列など)ためには、環境省および経済産業省に対して届出を行い、「特別国際種事業者」として登録する必要があります。
この登録を行っている骨董店や買取店は、象牙取扱いにおいて国の管理下にあり、適正な取り扱いの責任を負っているプロフェッショナルとも言えます。
専門業者を利用するメリット
個人取引と比較した場合、専門業者を利用することには以下のような利点があります。
- 法令に則った安全な取引
事業者は法律の要件を熟知しており、取引に必要な記録や手続きを適正に行います。売り手であるお客様が、複雑な法的手続きについて過度に心配する必要がなく、安心して任せることができます。 - 適正な価値評価
象牙は、重量だけでなく、彫刻の精巧さ、保存状態、部位による密度の違いなどによって価値が異なります。専門知識を持つ鑑定士であれば、市場の相場に基づいた適正な査定を行うことが可能です。 - 手続きのサポート
「登録票があるかわからない」「登録内容と現況が合っているか不安」といった場合でも、専門業者であれば適切なアドバイスやサポートを行うことができます。
個人でリスクを負って出品先を探すよりも、特別国際種事業者として登録された事業者へ相談することが、結果として最もスムーズで、かつトラブルのない方法と言えるでしょう。
4. 信頼できる買取店の見分け方と売却のポイント
象牙の売却先として専門業者を選ぶ場合、どの業者に依頼するかが非常に重要です。法律の遵守意識が低かったり、象牙に対する鑑定眼がない業者を選んでしまうと、適正な価格で手放せなかったり、後のトラブルの原因になったりする可能性があります。
ここでは、安心して任せられる、信頼できる買取業者を見分けるための重要なチェックポイントを解説します。
チェックポイント①:「特別国際種事業者登録番号」の有無
これが、象牙を取り扱う業者を選ぶ際の最も重要な判断基準です。
前述の通り、象牙製品を事業として取り扱う業者は、国に対して「特別国際種事業者」として登録し、登録番号を取得する義務があります。この番号は、環境省と経済産業省の指導の下、法令を遵守して事業を行っている証です。
- 確認すべきこと: 業者のウェブサイトや店舗の掲示物に、「特別国際種事業者登録番号」が明記されているかを確認してください。番号が不明確であったり、掲示を拒む業者は避けるべきです。
- 登録番号の例: 象牙の場合、「象牙・ぞう科の牙及びその加工品」として「(環境省)〇〇〇号」や「(経済産業省)〇〇〇号」といった形式で記載されます。
この登録番号は、お客様の象牙が合法的なルートで次の所有者に引き継がれるための、安心の保証となるのです。
チェックポイント②:登録票に関する知識と対応
象牙の全形牙(牙の形を保ったもの)の取引には「登録票」が必須です。この登録票について、専門業者が適切な知識を持っているかを確認しましょう。
- 取引開始時の確認: 査定の問い合わせをした際、業者側がまず象牙の状態よりも「登録票の有無」や「登録票の内容」を確認してくるかどうかが、信頼できるかどうかの判断基準となります。
- 登録票の内容照合: 登録票には象牙の重量や形状が記載されています。査定時に、業者がお客様の目の前で、現物と登録票の内容を慎重に照合し、齟齬がないか確認する姿勢は、法律を尊重している証拠です。
- 紛失時の対応: もし登録票を紛失している場合、「登録票がないと売買はできませんが、再登録の申請サポートやアドバイスは可能です」といった、法律に基づいた案内をしてくれる業者を選びましょう。「登録票なしでも買い取ります」と主張する業者は、違法取引に関与している可能性があり、非常に危険です。
チェックポイント③:鑑定における専門性と価格の説明責任
象牙の適正価格は、国際的な相場や国内での需給、象牙自体の品質(ヒビの有無、密度、彫刻の芸術性)によって決まります。
- 鑑定士の知見: 単に重さを測るだけでなく、「この彫刻は〇〇派の作風である」「この部分の密度が高いため高品質である」といった、専門的な評価を交えて説明してくれるかを確認しましょう。
- 価格形成の説明: なぜその価格になったのか、市場相場や状態を根拠として明確に説明してくれる業者は信頼できます。「なんとなくこの値段」といった曖昧な査定を行う業者は避けるべきです。
- 他社との比較を歓迎する姿勢: 多くの信頼できる業者は、お客様が他社と比較検討することを前提として査定を行います。査定額に自信があるため、即決を迫ったり、持ち帰りを拒んだりすることはありません。
チェックポイント④:古物商許可証の提示と企業の信頼性
象牙は古物(中古品)であるため、買取業者は古物営業法に基づき「古物商許可証」を取得している必要があります。
- 許可証の確認: 所在地の公安委員会名と許可番号(例:〇〇県公安委員会許可 第〇〇〇号)がウェブサイトや店舗に明記されているかを確認しましょう。
- 店舗の存在と特定商取引法の表記: 連絡先(電話番号、住所)が明記されており、実際に実店舗や事務所が存在するかも確認すべきです。匿名性の高い取引を行う業者は、トラブル時の対応が期待できず、信頼性は低いと判断できます。
まとめ
象牙の個人出品は、過去の取引イメージとは異なり、現在では法的な規制や主要プラットフォームの規約改定により、極めて困難となっています。安易にインターネットで個人間取引を試みることは、法律違反のリスクや、取引トラブルによる大きな負担につながりかねません。
象牙という価値ある品物を安全かつ適法に手放すためには、「特別国際種事業者」の登録を持つ専門の買取業者へ相談することが、最も賢明な選択です。
お手元の象牙の価値を正しく見極め、適正な価格で次の世代へ引き継ぐためにも、まずは信頼できる専門業者を選び、登録票の有無や状態について相談することから始めてみてください。それが、象牙の適切な管理と保全に繋がる第一歩となります。












