
オールドノリタケとは、一般的に明治中期から第二次世界大戦終結までの時期に、森村組や日本陶器によって製造・販売された装飾陶磁器を総称する呼び名です。 現代のノリタケ製品とは異なる歴史的な位置づけを持ち、緻密な装飾技法や多様な裏印で広く知られています。本記事では、オールドノリタケの定義と現代製品との相違点、明治大正期の歴史的背景、盛り上げや金彩などの装飾技法、年代を推定するための裏印の種類、そして美術品としての希少性や適切な保存方法までを解説します。基礎的な知識を体系立てて理解できる構成としています。
目次
オールドノリタケの定義と現代製品との違い
対象となる期間とメーカー
オールドノリタケとは、一般的に明治中期から第二次世界大戦終結までの期間に製造された陶磁器製品を指します。この時期には、貿易商社である森村組と、1904年に設立された日本陶器合名会社が中心的な役割を担いました。森村組は明治9年(1876年)に森村市左衛門と森村豊によって創業され、雑貨や陶磁器などの輸出事業を展開しました。日本陶器合名会社は明治37年(1904年)に愛知県愛知郡鷹場村大字則武に設立され、1917年に日本陶器株式会社となりました。現在のノリタケ株式会社へとつながる会社です。欧米市場を意識した製品開発や生産体制の整備によって、多彩な装飾陶磁器が生み出されました。
里帰り品と呼ばれる理由と現代製品との違い
オールドノリタケの多くは、当時の日本国内市場ではなく欧米、とりわけアメリカ合衆国向けに輸出されていました。そのため、後年になって日本の収集家や業者がアメリカやヨーロッパから買い戻し、日本に逆輸入した製品は里帰り品と呼ばれています。現代のノリタケ製品との違いは以下の通りです。
- 製造時期がおおむね明治中期から第二次世界大戦終結までである
- 主要な販売先の一つが欧米市場であった
- 手描きや盛り上げ、金彩、転写など多様な装飾技法が用いられている
- 裏印の種類が多岐にわたり、年代や販売先などを推定する手がかりになる
- 欧米から日本へ里帰りした品も現在の骨董市場で流通している
現代のノリタケが洋食器ブランドとして幅広く親しまれているのに対し、オールドノリタケは製造年代や歴史的背景、装飾性などから、美術品や骨董品として収集・鑑賞されることが多い点が特徴です。
明治大正期における歴史的背景
森村組の設立と海外輸出の経緯
森村組は明治9年(1876年)、森村市左衛門とその弟である森村豊によって創業されました。同年、ニューヨークに日本の雑貨などを扱う店を開き、海外市場への進出を始めます。その後、1878年に「日の出商会モリムラブラザーズ」を設立し、1881年には「モリムラブラザーズ」へと名称を改めました。陶磁器の輸出を拡大するなかで、東京や京都、名古屋などの画付工場との連携を進め、1896年には画付工場を名古屋へ集約します。海外市場のニーズを取り入れながら品質やデザインの向上を図ったことが、後のオールドノリタケの発展を支える基盤となりました。
日本陶器の設立と白色硬質磁器の開発
明治後期になると、欧米では洋食器としてのディナーセットの需要が拡大し、より白く硬質な磁器が求められるようになりました。この需要に応えるため、森村組は明治37年(1904年)に日本陶器合名会社を設立します。設立当初の課題は、欧米の高級磁器に肩を並べる白色硬質磁器を量産することでした。原料の選定、成形技術、焼成温度の管理など、数々の技術的困難を乗り越えながら開発が進められ、大正3年(1914年)に日本随一となる本格的なディナーセット「セダン」が完成しました。この技術的達成によって、日本陶器は欧米市場において高い評価を得ることになり、装飾性豊かなオールドノリタケ製品の製造基盤が確立されたのです。
オールドノリタケに用いられた装飾技法
盛り上げと金彩による表現手法
オールドノリタケの装飾を語るうえで欠かせないのが、盛り上げと金彩の技法です。盛り上げとは、泥漿(でいしょう)をチューブ状の器具で絞り出したり、筆で塗り重ねたりして、器面に立体的な模様を作る技法です。花や葉、幾何学模様などの装飾に用いられました。こうして盛り上げた模様の上に金彩を施す「金盛り」も、オールドノリタケを代表する華やかな装飾技法です。
- 盛り上げ:模様が器面から立ち上がり、指で触れると凹凸を感じ取れる
- 金彩:金色による絵付けで、光の当たり方によって輝きが変化する
- 盛り上げ金彩:盛り上げた部分に金彩を施し、立体感と輝きを両立させる
- 手描き:絵付師が筆を使って模様や風景などを描く技法で、筆致や色彩に個体差が見られる
タペストリーとコバルトの技法
タペストリー技法とは、素地の表面に布目のような凹凸を付け、その上に絵付けを施すことで、まるで織物のような質感を再現する技法です。仕上がった陶磁器には織物特有の風合いが漂い、絵画的な表現と組み合わせることで独特の意匠が生まれます。コバルト技法は、コバルト顔料を用いて青色を基調とした深みのある発色を実現する技法で、白磁の地に鮮やかな青が映える意匠が特徴です。コバルト部分に金彩や盛り上げを組み合わせた装飾も多く、荘厳な雰囲気を持つ製品が数多く残されています。
アール・デコ様式の導入
大正末期から昭和初期にかけて、欧米ではアール・デコ様式が流行しました。オールドノリタケもこの潮流を敏感に取り入れ、直線的で幾何学的なデザイン、モダンな色使い、様式化された人物や動植物のモチーフなどを積極的に採用しました。それ以前に主流であったアール・ヌーヴォー的な曲線美とは対照的な、簡潔でありながら装飾的なデザインが登場し、当時のライフスタイルや美意識の変化を映し出す製品として、現在も高く評価されています。
年代を特定する裏印の種類と特徴
裏印が持つ意味と年代特定における役割
裏印とは、陶磁器の底面などに施される製造元やブランド、原産国などを示すマークです。オールドノリタケでは100種類以上の裏印が確認されており、製造年代を推定する重要な手がかりとなります。ただし、裏印は年代だけでなく、米国・英国・国内といった販売先、ディナーウェアやファンシーウェアなどの用途、材質や品質などによっても使い分けられていました。そのため、裏印だけで製造年を断定するのではなく、器形や装飾技法、原産国表記なども含めて総合的に判断することが重要です。
メープルリーフ印とマルキ印の特徴
初期のオールドノリタケで用いられた代表的な裏印として、メープルリーフ印とマルキ印があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
- メープルリーフ印:1891年頃から1915年頃にかけて、主に米国向けのファンシーウェアに使用された裏印です。カエデの葉を図案化したマークで、「NIPPON」の原産国表記が見られます
- マルキ印:主に英国向けの製品に使用された裏印です。初期マルキ印は1900年頃から1910年頃に使用されたとされ、その後も英国登録など複数のタイプが存在します。「困」の文字を図案化したものとされ、スパイダーマークとも呼ばれています
M-NIPPON印と桜印の識別方法
M-NIPPON印は、1911年頃から1921年頃にかけて、主に米国向けの製品に使用された裏印です。「M」の文字と「NIPPON」の表記を組み合わせた意匠で、中央の「M」はMorimuraの頭文字を示しています。1921年頃を境に米国向け製品では「NIPPON」表記から「JAPAN」表記への移行が進み、M-JAPAN印なども使用されるようになりました。
一方、サクラ印は1924年頃から1935年頃にかけて、主に米国向けのファンシーウェアに使用された裏印です。アール・デコ風のデザインを施した製品にも多く見られます。裏印には同じ時期でも複数の種類が存在するため、製造年代や販売先を調べる際には、専門資料と照らし合わせながら器形や装飾なども含めて判断することが重要です。
美術品としての希少性と画付の個体差
手作業による個体差と画付の技術
オールドノリタケの画付は、多くの場合、熟練した絵付師による手作業で施されました。そのため、同じデザインの製品であっても、筆致や色合い、盛り上げの立体感などに個体差が生じます。絵付師の技量や個性が反映されるため、量産品でありながら一点物のような趣を備える点は、オールドノリタケの大きな魅力のひとつです。特に高級ラインの製品では、細密な花柄や風景画、人物画などが施され、絵画としても鑑賞に堪える作品が数多く存在します。
歴史的資料としての位置づけと希少性
オールドノリタケは、日本の近代陶磁器産業の発展、明治から昭和にかけての貿易史、そして欧米の装飾美術の潮流を映し出す歴史的資料としても位置づけられています。一方、オールドノリタケであればすべてが希少というわけではなく、製品によって現存数や市場での評価には大きな違いがあります。製造年代、器形、装飾技法、裏印、保存状態、流通量などによって希少性は異なります。なかでも現存数の少ない器形や高度な装飾を施した製品、保存状態の良いものなどは、収集家から高く評価されることがあります。
模倣品との違いと適切な保存状態の維持
模倣品とオリジナル製品を見分けるポイント
オールドノリタケは骨董市場で人気があることから、後年に作られた複製品や、古い裏印を模した製品も確認されています。しかし、裏印の鮮明さや陶磁器の色、絵付けの印象など、一つの特徴だけで真贋を判断することは困難です。確認する際には、次のような点を総合的に見る必要があります。
- 裏印の意匠や文字、原産国表記が使用年代と整合しているか
- 裏印と器形、装飾技法の年代に矛盾がないか
- 盛り上げや金彩、絵付けなどが当時の技法や作例と整合しているか
- 素地や釉薬、器形などに不自然な点がないか
- 同じ裏印を持つ信頼できる資料や作例と比較して違和感がないか
本物の裏印を模した複製品も存在するため、「裏印が一致している」という理由だけで真正品と判断することはできません。判断が難しい場合は、オールドノリタケに詳しい鑑定士や信頼できる専門店などに相談するのが安全です。
適切な保存状態を保つ手入れの方法
オールドノリタケは製造から長い年月が経過しているため、保存状態が製品の評価に大きく影響します。保管や手入れの際には、以下の点に留意することが望まれます。
- 直射日光や急激な温度・湿度変化を避け、安定した環境で保管する
- 食器棚などに収納する際は、他の器と直接触れないよう柔らかい素材を挟む
- まず柔らかい刷毛などで表面の埃を優しく取り除く
- 洗浄する前に、金彩や絵付け、釉薬、接着跡などに剥離や傷みがないか確認する
- 状態が良好なものを洗浄する場合も、食器洗浄機や研磨剤、熱湯の使用は避ける
- 金彩や盛り上げ、絵付け部分を強くこすらない
- 貫入やひび、剥離、過去の修復などがある場合は、安易に水洗いしない
特に金彩や盛り上げ、上絵付けなどの装飾は摩擦によって傷む場合があります。また、古い修復が施されている製品では、水分によって接着部分などが劣化する可能性もあります。状態に不安がある場合は無理に洗浄せず、現状を維持することを優先するとよいでしょう。
まとめ
オールドノリタケとは、一般的に明治中期から第二次世界大戦終結までの間に、森村組や日本陶器によって製造・販売された装飾陶磁器を指します。その多くは欧米市場を意識して作られ、日本へ里帰りした製品も現在の骨董市場で流通しています。明治から昭和にかけて発展したこれらの製品には、盛り上げや金彩、タペストリー、コバルト、アール・デコ風デザインなど多彩な装飾技法が用いられました。また、メープルリーフ印やマルキ印、M-NIPPON印、サクラ印などの裏印は、製造年代や販売先などを推定する重要な手がかりとなります。ただし、裏印だけで年代や真贋を断定することはできず、器形や装飾技法などを含めた総合的な判断が必要です。歴史的背景や装飾技法を知り、適切な環境で保存することで、オールドノリタケをより深く鑑賞することができます。













