今回ご紹介するお品物は、『明暗洞簫譜』 丘翁による尺八楽譜でございます。
『明暗洞簫譜』は、虚無僧尺八の系譜を受け継ぐ「明暗流」に関係する尺八譜であり、禅的精神文化と深く結びついた本曲の伝承資料として知られています。明暗流は京都・明暗寺を中心に伝承された流派で、江戸時代以来、多くの尺八古典曲を継承してきました。現在でも研究対象として扱われており、関連する尺八譜や音譜解説書が国立国会図書館などにも収蔵されています。
本作は、表紙題箋に「明暗洞簫譜」の墨書が確認できる和綴本で、帙(ちつ)付きの保存箱も備わっています。内部には力強い毛筆による書が記されており、見返しには「想本曲会 吹禅法興一千年」「昭和四十三年秋」「永井玄洞道人様」といった記述が見られます。また、「丘翁」の署名および落款も確認でき、尺八愛好家あるいは明暗流関係者へ贈呈された資料であることがうかがえます。
「洞簫(どうしょう)」とは本来、中国由来の縦笛を指す言葉ですが、日本では尺八関連資料の名称としても用いられており、明暗流関係の譜本や資料名にも散見されます。実際に「明暗洞簫」の語は、近代の尺八音譜資料にも確認されています。
また、本作品は墨書の状態も比較的良好で、題箋や帙も残されております。昭和期の尺八文化や明暗流の伝承を今に伝える資料として、趣ある一品であることから、こちらの評価をさせていただきました。