ルネ・ラリックは、19世紀末から20世紀前半にかけてフランスで活躍したガラス工芸作家です。1885年にジュエリーデザイナーとして独立し、パリで創作活動を開始しました。その後、ヴァンドーム広場へ拠点を移し、主に女性向けの高級ジュエリーのデザインを手掛けます。金やプラチナ、ガラス、エナメルなどを巧みに組み合わせた独創的な作品を次々と発表し、1900年のパリ万国博覧会では宝飾作品が高い評価を受け、国際的な名声を確立しました。アール・ヌーヴォーからアール・デコへと時代が移り変わる中でも革新的な作品を生み出し続け、「ガラスの魔術師」と称されています。
本作は、ルネ・ラリックが1921年にアルザス地方の名門ワイナリー「クロ・サント・オディール(Clos Sainte-Odile)」のためにデザインした名作『オディール』をもとに、戦後ラリック社で製造されたクリスタルガラス製のペアグラスです。
最大の特徴は、ステム部分に表現されたアルザス地方の守護聖女「聖オディール」の意匠です。長い外衣をまとい、胸の前で静かに両手を合わせて祈りを捧げる姿が繊細に表現されており、その穏やかな表情はラリックならではのフロスト加工によって柔らかな立体感を生み出しています。また、聖女の足元、フットとの境目には葡萄の粒が一周するように配され、ワイン造りへの敬意と豊穣を象徴する装飾が施されています。ワイナリーのためにデザインされたグラスならではの由来と芸術性を兼ね備えた、ラリックを代表する名作の一つです。