市川銕琅は、奈良県を中心に活躍した工芸作家・彫刻家です。師である加納銕哉から受け継いだ高い写生力を基盤に、丸彫りによる立体的な写実表現と、細部まで丁寧に仕上げる彫刻技法を融合させた作品を数多く手掛けました。奈良一刀彫などの伝統技法も取り入れ、古典的な題材を生き生きと表現した置物などで知られています。
本作は、白檀を用いて木の葉とてんとう虫を表現した帯留めです。白檀特有の温かみのある質感と、ほのかに感じられる甘い香りも魅力の一つです。また、きめ細かく硬質な木質を活かし、木の葉の繊細な葉脈や虫食いの跡、てんとう虫の愛らしい姿まで細やかに彫り込まれています。
小さな作品ながらも、写実性の高さや細密な彫刻技法など、市川銕琅ならではの魅力が随所に感じられるお品です。作品の出来栄えや細工の細かさ、素材の特徴などを総合的に考慮し、今回の評価とさせていただきました。