福井欧夏は、現代の具象・写実絵画界を牽引する日本の写実洋画家です。
福井は広島県に生まれ、多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、武蔵野美術大学大学院油絵科を修了し、修了制作優秀賞を受賞しました。デザイン科出身ならではの画面構成力や色彩感覚が、後の写実表現の基盤となっています。また、1995年の第71回白日会展に初出品して「白日賞」を受賞して以降、白日会と日展の両公募展を主な舞台として精力的に作品を発表し、数々の賞を重ねて両団体の会員へと推挙されました。光や空気感、モデルの内面までを捉えた詩情豊かな人物画(主に女性像)で高く評価されています。
彼の作品は、写真を使わずに実際のモデルやモチーフを目の前に置いて描く「現場主義(リアリズム)」の徹底と、静謐で詩的な空気感が大きな特徴です。モデルの息遣いやアトリエの空気感、衣服の質感までが画面に表現され、存在感とマチエール(絵肌)を生み出しています。描かれる女性像は、伏し目がちであったり、視線を遠くに向けて物思いに沈んでいたりと自然体で佇んでおり、感情を過剰に主張しない姿が、鑑賞者にモデルの内面性や詩的な情景を想起させます。
現在も白日会会員および日展会員として第一線で活動を続けており、松坂屋名古屋店などの主要百貨店をはじめ、埼玉画廊やギャラリー和田といった画廊、出身地に近い天満屋(岡山・福山)などで定期的に個展を開催しています。
松原政祐は、人間と自然の共生や命の尊さをテーマに描く日本の洋画家です。
松原は兵庫県神戸市に生まれ、幼少期から絵を描くことを好み、高校生の頃から画家を志していました。武蔵野美術学園卒業後、兵庫県展にて兵庫県立美術館賞を受賞し、その後も行動展新人賞、行動美術賞、行動40周年記念大賞などを獲得しました。また、1988年には《生きるものたち「誕生」》で第1回前田寛治大賞展にて大賞を受賞し、高い評価を得ました。安井賞展への出品や、現代美術選抜展への招待出品なども多数行っています。
彼の作品は、「生きるものたち」を一貫した主要なテーマとしています。若き日の葛藤や困難、命の終わりや死と向き合ってきた実体験に基づき、人間だけでなく動物、鳥、樹木など、あらゆる命の繋がりを描いています。また、油彩画をベースとしながら、絵の具の塗り重ねや削り出し、異素材やコラージュを組み合わせる混合技法を用いています。黄金色、赤褐色、土色などを基調とした重厚な画面(マチエール)を作り出し、時の経過や記憶の深みが表現されています。
坂本直行は、北海道の山々や原野、高山植物を描いた洋画家・山岳画家です。
坂本は北海道釧路市(当時の釧路町)に生まれ、祖父の坂本直寛は坂本龍馬の甥にあたります。
北海道帝国大学(現・北海道大学)農学実科に進学し、山岳部に所属して各地の厳冬期の山々を登破し、山岳スケッチの基礎を築きました。
1957年に初個展を開催し、1960年には開拓地を離れて画業に専念するようになり、その後は帯広の銘菓「六花亭」の草花柄包装紙や児童詩誌『サイロ』の表紙絵を手がけました。素朴な作風で広く親しまれるとともに、日高山脈を中心とする山岳画を確立したほか、ヒマラヤやカナディアン・ロッキーへのスケッチ旅行など精力的に活動しました。1974年に北海道文化賞を受賞し、晩年まで筆を置くことなく、生涯を通じて山と自然を描き続けました。
彼の作品は、自ら山に登り農地を開墾した実体験に基づき、北海道の自然を力強い線と明快な色彩で捉えているのが特徴です。装飾的な描き込みを抑えたシンプルな描線により、モチーフが持つ生命力や造形美が直接的に表現されています。特に、厳しい山容と冷涼な空気感を俯瞰で捉えた遠景の「山岳画」と、足元に咲く草花の命を捉えた近景の「野草画」という対比的な二つの視点が、彼の画業を象徴する要素となっています。
坂本直行は生誕120周年にあたり、北海道広尾町の海洋博物館で記念特別展が開催されたほか、記念切手も販売されており、六花亭の包装紙に描かれた草花の絵などを通じて、現在も広く親しまれています。
北久美子は、昭和から平成時代にかけて活躍した日本の洋画家です。
地元の浪速短期大学(現在の大阪芸術大学短期大学部)で洋画家・鍋井克之らに師事して絵画を学び、卒業した同年に第20回記念二紀展へ初入選。その後、第27回女流画家協会展への初入選をはじめ、数々の賞を受賞しました。代表作の『夢想植物園』は文化庁買上げとなり、文化庁芸術家在外特別研修員としてスコットランド、オランダ、フランスへ派遣されるなど、国内外で幅広く活動しました。また、現代日本絵画展(北京・故宮博物院)やジャパン・アート・フェスティバル(ロンドン)などの海外展にも出品し、国際的な評価を得ています。その後は大阪芸術大学で教授・客員教授を務め、後進の育成にも尽力しました。
北久美子の作品は、西洋の油彩技法を基盤としながら、日本の伝統美を融合させた「現代の花鳥画」ともいえる独自の表現が特徴です。欧州での研修を経て、日本の屏風絵や琳派の装飾美を改めて見つめ直したことで、油彩画でありながら和の花鳥画を思わせる空間構成や、独特の構図美を生み出しました。
作品には、鮮やかな青空や幻想的な月夜・夜空を背景に、濃密な緑の葉や色とりどりの花々、鳥や蝶などの動植物が描かれることが多く、背景の青と植物の鮮やかな色彩との対比も大きな魅力となっています。
北久美子は、単なる風景画や静物画にとどまらず、自らの心の中に描いた「楽園」のような世界を、緻密な筆致と豊かな色彩によって表現した作家といえます。
熊谷榧(1929年〜2022年)は、昭和から令和にかけて活躍した洋画家です。洋画家・熊谷守一の次女として生まれました。
熱心な登山家でもあった彼女は、世界各地の山々や身近な自然、動植物を精力的に描きました。日本山岳画協会会員として、重厚な色彩と力強い筆致で捉えた豊かな風景画が高く評価されています。幾重にも絵具を重ねる厚塗りの技法と鮮やかな色彩感覚が特徴で、立体的な山肌や美しい空のグラデーションが作品に強い存在感を与えています。
1985年には父の旧居跡地に「熊谷守一美術館」を設立して館長を務め、父の芸術の継承と自身の創作活動を両立させました。山と自然を愛し続けたその独特の画風は、今なお多くの愛好家を魅了しています。
田窪 恭治(たくぼ きょうじ)は、愛媛県出身の日本の現代アーティストです。
多摩美術大学絵画科を卒業後、廃材を使った作品や体を使った表現活動を経て、建築や歴史、自然環境を取り込んだ「風景芸術」へ作風を変えました。
表現の核となるのは、対象となる土地の風土や歴史、四季の移ろいに注目し、建築や空間全体を再生・作品化する手法です。地域に根ざしたモチーフ(林檎や椿など)を扱い、多層に重ねた顔料をノミで削り出す独特の壁画技法や、ガラス瓦による採光などを用いて、自然光や周囲の景観と一体化する空間表現を作り上げます。建造物の記憶や自然の気配を生かし、過去と現代を繋ぐダイナミックなスケール感が特徴です。
フランス・ノルマンディー地方の礼拝堂再建プロジェクトや香川県で琴平山再生計画に取り組むなど、歴史ある地域の風景や建築を統合した再生事業を展開しています。