
『美味しんぼ』を読んだことがある方なら、主人公・山岡士郎の父であり、頑固で辛口な美食家「海原雄山」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
海原雄山は、北大路魯山人をモデルにした人物の一人といわれています。魯山人作品を扱う鑑定士の立場から見ても、二人の人物像には、確かに重なる部分があると感じます。
『美味しんぼ』をご存じない方のために簡単に触れておくと、新聞記者の山岡士郎が「究極のメニュー」作りに取り組む姿を描いた、料理をテーマにした長寿漫画です。
海原雄山は山岡士郎と長年疎遠になっていた父親で、陶芸から書、絵画まで幅広くこなす美食家として登場します。
海原雄山というキャラクター
作中の海原雄山は、妥協のない美意識と、料理に対する厳しい評価で知られ、山岡としばしば料理をめぐって対立する場面が描かれています。
作中の具体的な台詞や場面は原作をご確認いただきたいのですが、こうした「一芸ではなく多方面で活躍する美食家」という設定そのものが、魯山人の実像に重なっています。
魯山人と海原雄山に共通する人物像
北大路魯山人は篆刻家、画家、陶芸家、書家、漆芸家、料理家と、実際に多方面で活躍した人物です。性格の面でも、無遠慮で気難しく、思ったことをそのまま口にする毒舌家だったと伝えられており、この気性の強さが、海原雄山の人物像と重ねて語られる理由の一つになっています。
美食家としての一面もよく知られるところで、フランスを訪れた際に出された料理のソースが口に合わず、わさび醤油をかけて食べたという逸話も残っています。
周囲の評価に左右されず、自らの味覚や美意識を貫く姿勢は、作中で海原雄山が見せる態度にも通じるものがあります。
北大路魯山人について知りたい方はこちら
実際はどこまで似ているのか
一方で、実在の魯山人と海原雄山はそれほど似ていないと感じる読者もいます。海原雄山はあくまで漫画のキャラクターとして再構成された人物であり、魯山人の性格や経歴のすべてがそのまま反映されているわけではありません。
二人の共通点として語られているのは、多方面にわたる芸術的才能や美食へのこだわり、妥協のない美意識、気性の激しさなど、人物像の一部分です。
そのため、海原雄山を「魯山人そのもの」と捉えるのではなく、魯山人を思わせる要素を取り入れて生み出されたキャラクターとして見るのがよいでしょう。
会員制の料亭にも関わった美食家でもあった
魯山人は書や篆刻で身を立てたのち、盟友の中村竹四郎とともに、骨董店の二階で会員制の食事処「美食倶楽部」を始めました。
やがて、自分の料理にふさわしい器がないことから、自ら食器を作るようになったと伝えられています。
その後、中村とともに、既存の「星岡茶寮」を借り受け、会員制料亭として再興しました。
経営を担ったのは中村竹四郎で、魯山人は顧問兼料理長として、料理や器、空間づくりなどに携わりました。
星岡茶寮についてもっと詳しく
まとめ|フィクションを通して知られた美食家
海原雄山というキャラクターをきっかけに、北大路魯山人という実在の芸術家に興味を持った方も少なくないでしょう。
多方面で発揮された才能と、料理や器に対する妥協のない美意識。さらに、周囲と衝突することもいとわない強烈な個性は、海原雄山の人物像にも通じています。
ただし、海原雄山は魯山人の生涯や性格を忠実に再現した人物ではありません。共通する要素を持ちながらも、漫画作品のために創作された、独立したキャラクターです。
フィクションの人物と重ね合わせながら見ることで、魯山人の芸術や料理へのこだわりを、より立体的に感じられるのではないでしょうか。
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